Sounds Of Blackness

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スティービー・ワンダー、ルーサー・ヴァンドロス、クインシー・ジョーンズ、マイケル・ジャクソン、プリンス、アレサ・フランクリン、エルトン・ジョン、サンタナ・・

 彼らがそのプロジェクトに参加して来たアーティストには、身震いするような名前が並ぶ。ハイクオリティーなクワイアーがゴスペル界には溢れる現在でさえ、このようなクワイアーは他に例を見ない。オバマ前大統領夫妻やジャネット・ジャクソンもSoundsの大ファンであると公言する。

 アメリカの「ゴスペル音楽史」にではなく、「音楽史」に大きく名を残すクワイアーがたった一つあるとしたら、それは The Sounds Of Blackness であろう。

 「有名なゴスペルディレクターの一人」、「有名なゴスペルグループの一つではなく、人が Gary Hines と Sounds Of Blackness にだけ惚れ込む理由がある。

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Grammy Winning:
The Evolution Of Gospel
by Sounds Of Blackness

*1: 1992年Best Gospel Album by Choir or Chorus. LinkIcon参照
*2: Stellar Award, International Time For Peace Award, Soul Train Award etc..

「黒のサウンド」と名付けられたアート。

グラミー受賞のゴスペルさえ、
包含するカテゴリの「一部」

 ゲイリー・ハインズが実に19歳の時から指揮して来た、大学のクワイアーに端を発するグループ、The Sounds Of Blackness。レコード契約の為に、当時印象が良くないと指摘された「Blackness」の言葉をアーティスト名から外してくれ、というメジャーレーベルの要求にゲイリーは応じなかったと言い、それが彼らを遅咲きにした一因となったという。

 Gospel, R&B, Jazz, Blues, Spirituals(黒人霊歌), Rock, Hip-Hop, Soul、それが彼らの言う彼らのジャンル。これらのジャンルを一言で言表す言葉が、彼らのグループ名、The Sounds Of Blackness (黒のサウンド) という事になる。やっと黒人が法の下の平等を手に入れたばかりの激動の時代を駆け抜けて、メンバー達は黒人の尊厳と伝統のメッセンジャーである誇りの為に歌い続けた。その彼らのサウンドに惚れ込み、グラミーアルバムの制作へと導いたのは、その時までにジャネット・ジャクソンを初のチャートトップへ押し上げていたプロデューサー達(ジャム&ルイス)であった。

 尚、この後ショービジネスのトップステージへ駆け上るSoundsメンバーだが、グラミー受賞の時点から今に至るまで、メンバー達は馬の調教師、弁護士、軍人など、昼間の仕事を持ちながら活動を続けていると言う。

無論、トップ「ゴスペル」アーティストでもある事。

 彼らをゴスペルクワイアーとして見れば、特に日本においてはその知名度が高くない事は事実。他のゴスペルビッグネームの陰に隠れている印象があるが、日本のゴスペルクワイアーで好んで歌われる「Hallelujah (A Soulful Celebration)」で、多くの人はその声を聞いているだろう。名だたるアーティストの参加で制作されたグラミー賞アルバム「Handel's Messiah: A Soulful Celebration」の最後を飾るこの一曲は、チャカ・カーン、アル・ジャロウ、ヴァネッサ・ウイリアムズ、Take 6らと共にThe Sounds Of Blacknessが歌っている。
 日本のゴスペルファンにもお馴染みの年刊ヒットオムニバスWOW Gospel。その1998には、God Caresが収録されている。

 ゴスペル曲を書いて歌えば、確かにヒットする。しかし、彼らはそこには留まらない。

Hallelujah、於ステラ・アワード (ゲイリー、Sounds、共にクワイアー内)。
 アメリカのゴスペル史に永遠に名を残すであろうこのアルバムの9曲目、「For Unto Us a Child is Born」は、ゲイリー・ハインズその人のプロデュースで、Soundsの作品となっている。これが、彼がグラミーにからんだ2作目。

「ゴスペル音楽の最前線」ではない
「音楽の最前線」にいるのだ

トップアーティスト達との共演

 前述の通り、Soundsは多くのトップアーティストを支えて来た、いわゆる「ファーストコール」(最高のクオリティーを求められるイベントでまず声がかかるハイランクのミュージシャン)のクワイアーだ。
 そのようなクワイアーが他に無いのは、彼らのパフォーマンスとサウンドのクオリティーの高さだけが唯一の理由ではない。それ以上に、彼らがゴスペルと教会の中にとどまらないアーティストである事を証明して来た事が大きく影響している。

ゲイリー & Sounds 参加アルバムの一例:
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左: Batman / Prince
中央: Conversation Peace/Stevie Wonder
右: Janet / Janet Jackson


NAACP Award for Aretha Franklin, With Jordin Sparks (American Idol). ゲイリーはコンダクター。



ジミー・クリフの名曲、Many Rivers To Cross



The Gospel Songs Of Bob Dylan (1:52〜ゲイリーインタビュー)

教会の中からではなく、
外からゴスペルを包み込むメッセージ

奇妙なチャート

 もちろん、ゲイリー本人がスピリットに溢れたクリスチャンである事は、その楽曲や言葉の温かさから伝わって来る。そうでなければ、そのゴスペルが本物になる訳がない。

私は自らを信じる
何故なら天からの力が
私を助けてくれると知っているから
彼を賛美する言葉のいくつかで
奇跡と夢が現実になる

Sounds Of Blackness "I Believe"


上記の楽曲 I Believe は信仰について語ったGospelナンバーだが、興味深い事にビルボードのGospelチャートにはランクインせず、その代わり Dance/Club Party Musicチャートの1位(1994年5月)、そして全ジャンルにわたる「HOT 100」にもランクインしている。

君の夢を皆が無理だと言うだろう
でも空を見上げ続ける限り
どんな障害も乗り越えて行ける

Sounds Of Blackness "Optimistic"。



 一方、この楽曲 Optimistic は聖書に基づく言葉を含んでいないが、グラミーゴスペル賞受賞の「Evolution of Gospel」に収録されている。それでもやはりGospel チャートにはランクインしない中、R&B/HipHopチャートの3位(1991年8月)、Dance/Club Party Musicチャートの17位を記録している。

 実は、こう言った楽曲を、教会外の大衆におもねる「クロスオーバー(中間色)ソング」と呼んで、その曲や、そう言う曲を好んで歌うゴスペルアーティストをよく言わないクリスチャンが、教会には決して少なくないのだ。

 しかし、彼らのメッセージは止まらない。女性という存在の輝きを歌った、She Is Love。

朝日のように輝き君を癒すのは、
いつも女性の働き・・

"She Is Love"
(黒人ドメスティックバイオレンス問題協会とのタイアップソング)


彼らの最も知られているナンバーの一つが、以下の曲。

しっかりしろよ、どうにかなるさ
全て、上手くいくよ

"Hold On, Change Is Coming"

インスピレーショナル

 実は、彼らのやっている音楽は、アメリカでは "Inspirational" と呼ばれる種類のものだ。日本では耳慣れない。サウンドの系譜と精神性はゴスペルに由来するが、賛美の言葉やキリストの名前は登場しない。だが、それは決して大衆におもねる為に宗教色から逃げているのではない。「どんな信仰を持つ人々とでも歌える歌」へと、姿を変えて行くのだ。

 これこそがゴスペルの遺産を生かしてゆく、進化形となる音楽だと僕は考えている。

 こうして彼らは、ゴスペルアーティストとしての成功からポピュラーアーティストの世界へと足を踏み入れて来た。

 これが、日本では分かりにくい Inspirational という言葉に代えて、私たちが Power Chorus と呼んでいるジャンルだという事になる。

 果たしてSoundsをゴスペルグループと呼べるか。またゴスペルの音楽性は昨今、白人系の音楽とのミクスチャーが進み、信仰溢れる言葉こそさえあれば音楽性にかかわらずそれはゴスペルと呼ばれる、という流れにある中で何故、「黒人サウンド」である事にこだわり続けるのか、という議題に面して、ゲイリーは答える。
「原始のアフリカ文化においては、人は行動の全てに神を表した。神の音楽は、西洋文化でするように教会の中でだけ行なわれるものではない。もし一つの音楽ジャンルに自分を縛ってしまったら、(神に)与えられた経験の全てを表現する事は出来ない。」

だからこそ、サウンドとパフォーマンスの完成度で勝負して来た

 Jesus!(イエス・キリスト!) と歌い叫べば、教会では歓声で迎えられる。それは時に、最も簡単に教会で歓声を得る手段でさえある。
 多くのゴスペルクワイアーが教会の賛同を得る事でまずリスナーを獲得する事が必須である中、Sounds がそのサウンドと独自の信念に基づいた全く違ったメソッドを歩いてこの地位を確立したのであろう事は想像に難くない。
 そうして追求した演奏者としての完成度と自立性が、クオリティーが最優先されるショービジネス界の住人の注意を引き、Soundsをポピュラーのトップフィールドに出入りする唯一のクワイアーとしているのだろう。
 これが、時に彼らを「孤高」の、あるいは現代ゴスペルにおける「無冠」の存在としている要素でもある。

レジェンド

 確かなクリスチャンアーティストとしてのスタンスと実績を持ちながら、教会の権威に頼らずに発信する自らのメッセージを持つ、確固たるいちアーティスト、そしていちジャンル。

 頼ったのは自らの音楽性と、その完成度。

 だからこそゴスペルに縛られずにショービジネスの最先端を闊歩する資格を持つ唯一のクワイアー、The Sounds Of Blackness。

 今日、教会/ゴスペル界では洗練されたゴスペルアーティストが群雄割拠し、彼らの多くが、アメリカの「ゴスペル史」に名を残すだろう。

 しかし、アメリカの「音楽史」に名を残すクワイアーがたった一つあるとしたら、それは、ゲイリー・ハインズと Sounds Of Blackness をおいて他にない。

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